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若手作家

Toko Okamoto岡本 東子

特別インタビュー日本画家 岡本東子(2012年8月) 2012年10月に個展『岡本東子 日本画展』を控え、11月には『台北アートフェア』に大作の出品を予定している日本画家・岡本東子。その筆力と作品の持つ不思議な吸引力は、徐々に注目を集め始めている。これまで露出の少なかった彼女の人物像と絵の魅力に迫った。
― 岡本さんは和装の人物を描いたり、ご自身でも着物を着られますよね。日本画を始めたのも、和の物にこだわりがあったからでしょうか?

岡本:もともと絵を描くのは大好きでしたが、日本画と決めていたわけではありませんでした。予備校時代、基礎コースのとなりにたまたま日本画のコースがあって、繊細な描き方がいいなと感じて展覧会に行き始めたのがきっかけです。 着物を着るようになったのも最近なんですよ。家に着物があることは知っていましたが、長らく箪笥の肥やしと化していました(笑)。普段着の着物でも、いざ着てみると緊張感が生まれて身体に芯が通ります。日本画も着物も手間がかかるけれど、そこに儀式的なものを感じるんですね。段階を踏むことで精神性が高まっていく。日本画に惹かれたのもそういう部分があると思います。

― 東美アートフェア2012の新作《春昼》のモデルも和装ですよね。あの絵にはどんな意味があるんでしょうか?

岡本:音楽でいうところの曲が先か、詩が先かで言えば《春昼》は曲、つまり構図が先に生まれました。なので詩は後付けではあるんですが、よく家に一人でいたりすると、わけもなく振り返ったりすることってありません?具体的に何かを感じているとか、そういうオカルト的なことではないんですけれど、何となく気になって、何もない空間を見てしまう。たぶん自分がそこにいるという意識があるから、自分以外のものが気になるんですよね。

『果てを知らない―地』 4F 2014年
雲肌麻紙、岩絵具、墨、水干
『果てを知らない―天』 4F 2014年
雲肌麻紙、岩絵具、墨、水干
―そういう「自意識」みたいなものは、岡本さんの作品のテーマになっていますよね。

岡本:私の自意識を感じてほしいとは思っていないし、「こういう感情を表現しました」という絵にしているつもりもありません。ただ、自分には気にしすぎ、考えすぎ、石橋を叩きすぎて叩き壊してしまうみたいなところがあって、それはたぶん自意識過剰から来ていると思います。そういう自分の感情を表に出す人もいれば出さない人もいる。痛みを感じていても痛いと言わない人を私は尊敬しますし、痛いと言いながら生活している人も美しいと思う。みんな楽して生きているわけではないですから、辛いことや痛いことを抱えながらも普通に生活している姿に単純に惹かれるんです。

―曲が先か詩が先かというお話がありましたが、詩が先に生まれる作品もありますか?

岡本:台北アートフェアの作品は詩が先でしたね。別に描き分けようというつもりはないのですが、詩が先に生まれる時というのは、アーティストっぽい表現で言うと「降ってくる」感じです(笑)。昨年以降、大きな痛みを抱えた方達と間近で接する機会が多くあり、彼らと話していると自分の悩みなんて小さいなと感じて。それで台北アートフェアの作品は暗く閉じた感情ではなく、光を感じられるような開いているものにしたいと思いました。逆に東美アートフェアの作品で人間をモデルにしているものは閉じています。描かれているモデルに勝手に同調して、彼女の絵としての体の中に、自分の感情を封じ込めている感じです。

― 東美アートフェアでは、動物の作品も出品予定されますよね

岡本:はい、動物を描きたいと思って描くことは少ないんですけれど、今回はたまたま見かけた野生の動物の表情が良かったので。もちろん人間のような意識はないんでしょうけれど、ものすごく意志を感じる表情をしていたんです。一点は狐で、もう一点はウミネコ。どちらも過去に見て、いつか絵にしようと思って頭の中にストックしておいたものです。

― なるほど、それは楽しみですね。ちなみに《春昼》を東美アートフェアの告知と共にWEBにアップしましたが、すごい反響でした

岡本:それはとても嬉しいし、ありがたいと思います。でも「実際見たらどうかな?」とか思ってみたり。自意識過剰ですね(笑)。私、褒められると戸惑ってしまうんです。友人に「もっと素直になれば?」とか「楽になればいいのに」って言われるんですけど、作品を褒められても「本当に?」と心で思ってしまう。嬉しいのに照れや恥ずかしさが先行してしまうんです。

『降る花』 100cm×170cm 2014年
白麻紙、墨、胡粉、岩絵具
『花がら』 4P 2013年
楮紙、岩絵具、墨、水干
―久々の個展となると、やはりプレッシャーも感じますか?

岡本:今はどちらかというと時間的なプレッシャーを感じています(笑)。もちろんいい物を描きたいという思いもありますが、焦るとろくなことはないですから。描いている時だけは無心になれるんです。昔は自分の好きな音楽をかけて描いていたのですが、聴き入ってしまう事があるので今はラジオを流しています。静かすぎても余計な悩みが浮かんでくるので、雑音がベスト。放送内容は頭に入っていないことが多いですね。描いている時は職人的です。

―絵が完成することはもちろんですが、岡本さんにとっては絵を描いている時間自体が大切なんですね

岡本:卒業後、絵は描いていくつもりでしたが、仕事は別のことをしようと考えていた時期があったんです。それで舞台美術の仕事はどうかなと考えて、その話がいよいよ具体的になった時に「絵を捨てられますか?」って聞かれたんです。その時にはっと気がつきましたね。日本画を始めたのは大学に入ってからですけれど、お絵描き的なことはずっと小さい頃から手癖のようにやっていて、その感覚は今でもあまり変わりません。指先から画面に感情が移る、というか。描いている間は無心になっているような、その感覚が好きです。

―今後やりたいことや目標はありますか?

岡本:絵に関して言えば何でもやってみたいです。もっと上手くなりたい、思うように描けるようになりたいですね。もしかすると一生そう思い続けるのかもしれません。