東京銀座ぎゃらりぃ秋華洞

【特集】橘小夢版画展

橘小夢(たちばなさゆめ)は大正・昭和にかけ雑誌や小説の挿絵を中心に活躍した画家です。
民話や妖怪談をベースにしたその妖しい魅力は一部の挿絵愛好家の心をつかんで離しません。
一方で、資料や作品の多くが残っておらず、「幻の画家」とも呼ばれています。
今回は小夢の版画をまとめてごらんいただける貴重な機会です。ぜひ お越しください。

展覧会期間: 2014年9月20日(土)~28日(日)(平日10:00~18:00、日・祝11:00~18:00)

会場:秋華洞内「ぎゃらりい秋華洞」 東京都中央区銀座6-4-8曽根ビル7F 

※入場無料・展示販売いたします

橘小夢《水魔》橘小夢《水魔》オフセット版

幻の作品「水魔」

 本作「水魔」が発表されたのは昭和7年、神田三省堂にて開催された橘小夢個人展覧会でのことである。しかし発表後、内務省からの発禁処分を受け、数百枚制作された「水魔」は全て没収されることとなった。そのほとんどが焼き捨てられたのであるが、何枚かを取り置くことが内緒で許されたという。
 おそらく「裸の女性が描かれている」という理由から下された発禁処分であったのだろう。だが水面を思わせる波紋や、波のような表現、水底から立ち昇る泡といった多視点的な描写は、扇情的というよりもむしろ、どこか幻想的な印象を作品にもたらしている。

橘小夢《沢村田之助》橘小夢《沢村田之助》

歌舞伎と小夢

 本作が主題とするのは、上半身をあらわにし妖しく笑う沢村田之助である。足元から立ちのぼる炎、右腕に巻きつく双頭の蛇、そして金色で表された後光。男でありながら女を演じ、妖艶さと神聖さとを内包する姿はどこか密教の仏をも思わせる。 水面の青と藤の紫、そして紙の白との響きあいが美しい一枚。

ここがポイント

三代目沢村田之助(1845-1878)は幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎役者。その美貌と卓越した演技力で絶大な人気を獲得した女形であったが、上演中の事故による怪我から脱疽を患い、四肢切断を余儀なくされた悲劇の役者としても知られる。

橘小夢《嫉妬》橘小夢《嫉妬》

小夢が描いた女性たち

 「一人の男が、二人の女を愛して居た。二人の女は何時も睦しかった。或時、双六をして遊んで居た二人の女は、春の夜の軽い疫れに、つい知らず假睡をした。すると、恐しくも、二人の女の髪の毛が、無数の蛇となって縺れ始めた。それを見た男は、自分の罪障の深いのを覚り、遁世して僧となった。」

 蛇を好んで描いた小夢であるが、一枚の中にこれほど多くの蛇を表した作品は他にないだろう。緊密な曲線と息苦しいまでの点描が、狂気に近いほどの嫉妬を感じさせる。

ここがポイント

石童丸物語、または刈萱物語として知られる伝説を主題とした一作である。筑後の侍、加藤左衛門尉繁の正室と側室がスゴロクをして遊んだあと、うたた寝をしている。一見仲良く見える二人にうずまく嫉妬を蛇のような髪の毛で表している。

橘小夢《お蝶夫人》

 本作に描かれるのは、華やかな蝶の柄の着物に身を包み、窓の外に目をやる「お蝶夫人」の姿。港に到着した軍艦を見て夫の帰還を知り、下女と共に「桜の枝を揺さぶって」を歌い喜び合う場面であろうか。だが「真の愛による結婚」と信じ慕った夫の帰国であるにもかかわらず、彼女のまなざしはどこか憂いを帯びている。小夢の描いた蝶々さんには、この物語の悲しい結末が見えているのかもしれない。

ここがポイント

本図が主題とするのは、プッチーニ作曲のオペラとして広く知られる「蝶々夫人」。長崎を舞台に、芸者出身の少女とアメリカ海軍士官との悲恋を描いた物語である。