「掘り出し物が出る店」
田中自知郎さんが思文閣にいた頃、北野恒富、池田蕉園、河村清雄、尾竹国観などちょっと変ったものを購入した。その当時は安かったが、現在は見直されていい値になっている。いわゆる掘り出し物だ。又、珍しい物も度々あった。
田中さんは目利きで冷静な人物だと思っていたが、ある時、松屋デパートの8階の「宮川」で鰻を食べていると、店の前を通りかかった田中さんが私を見つけ、ずかずかと入ってきた。
「福富さん、市でえらい買い物をしてしまって困っているんです。何とかならんですかね」とかなり慌てていた。
「どうしました?」
「いや、富岡永洗が出たので追っかけてしまい、競り合いになってつい夢中になって高値で落としてしまったんです」
「えっ、いくらで落としたんですか?」
「恥ずかしくて話になりません」
「そんなに高くては私も手が出ませんよ」
「いや、私の失敗ですから損しても構いません。貴方くらいしか話す人がいないのですよ」
と云われ落札価格の半値で引き取った。今では私の秘蔵品である。
「普段は冷静な田中さんでもこんな失敗をするのか」と可笑しかったことを覚えている。人間的には愛すべき人だ。又、真贋問題などでは人の話をよく聞き、謙虚なところもある。
息子さんは東大出の秀才で、自主映画の制作など多彩な趣味の持ち主。コンピュータ関連の会社からの華麗なる転身。 人情味あふれる父親と切れ者の息子さんとのコンビはいかに。
このコンビで株式会社秋華洞・秋華洞がどんな物を集めるかと楽しみだ。どんな掘り出し物が出るかと期待している。
キャバレー「ハリウッド」チェーンを創業、「キャバレー王」「キャバレー太郎」とも呼ばれた、戦後文化史をリードした、傑物の一人といえると思います。
福富太郎さま著書
・「描かれた女の謎-アート・キャバレー蒐集奇談」(芸術新潮連載)
・「昭和キャバレー秘史」
ほか多数。
株式会社秋華洞は、田中千秋君が、当代きっての目利きのお父さんと共に、東京・銀座六丁目にオープンさせた画廊です。
また、彼は今度、新しくインターネットで「おんらいんぎゃらりい秋華洞」をはじめます。
江戸時代から現代に至までの日本の美術品(書や絵画)を中心に、多くの逸品を収集されています。田中君の眼力はお父様に負けない、光る物を持っています。
何年か後に、我が国を代表する目利きとして、美術品のコレクターであり、ギャラリーのオーナーとして、世の中に認められる時が来ることを信じています。
目利き・眼力というものは一朝一夕に身に付くものではありません。努力が経験が必要なことは言うまでもありませんが、それよりもやはり、持って生まれた才能と育った環境が物を言います。
「秋華洞」の田中千秋君はその育ちから、まさに将来の目利きの大器と考えています。