作品解説
降り注ぐ春の陽光を浴びるように、柔らかな金泥に包まれた五羽の鶉である。「小鳥の好きな父は、絶えず種々の鳥を飼っていた。竹籠の中には、駒鳥、目白、うそ、鶯をはじめ、梟、鷺、鶉、にぎやかなことだった」と娘が語っているように、大の鳥好きであった青邨は、それらを日々愛でつつ観察していたのだろう。薄墨で描かれた淡い輪郭線と、柔らかな色使いによって生まれる鶉そのものの温もり、手のひら程の小さな命に画家が注ぐ眼差しのあたたかさまで伝わってくるようだ。
前田 青邨(まえだ せいそん)
まえだ・せいそん 明治18(1885)岐阜~昭和52(1977)東京
日本画家。16歳の時画家を志して上京。尾崎紅葉のすすめで梶田半古塾に入門。大正3年には日本美術院の再興に参加し、大和絵の伝統を軸に、歴史画から肖像画、花鳥画と幅広い作域を示し、豊麗な画境を築いた。昭和30年には文化勲章を受章するなど、近代日本画壇を代表する画家として活躍する。また、法隆寺金堂壁画の再現模写や高松塚古墳壁画の模写等、文化財保護事業に携わる。