チン・ペイイさんのプロフィールにも登場した「膠彩」とは、簡単にいいますと、日本画と同じ技法を用いた制作方法です。
例えば、油を使って顔料を定着させるから「油絵(油彩画)」、
水を溶剤として絵具を使う技法から「水彩画」、
アクリル樹脂を使って固着させるから「アクリル絵具」、というふうに、
岩絵具などの顔料を「膠(にかわ)」で定着させる絵画を「膠彩画(こうさいが)」といいます。
※膠(にかわ)…動物の骨や皮や腱などから抽出したゼラチンを主成分とする物質。
絵画を彩る主役的な顔料の成分や特質ではなく、本来(おおむね)色味のないとも
言える媒介部分成分を名前として用いて、技法や絵具を呼び習わすのは、考えているとちょっと不思議で面白く、でもとても合理的な分類方法ですね。
日本ですと、この「膠彩画(こうさいが)」は「日本画」という大きなくくりで呼ばれることが多いため、ほとんど耳にしないかもしれません。
変わって台湾では「膠彩」は「ジャオサイ」と発音します。
中国を本流とする中国国画にも岩絵の具を用いた、現在では岩彩とよばれる絵画が
ありますが、特に戦前戦後の台湾で発展しはじめた「膠彩」の技法は、
どちらかといえば日本画に近いものだと思われます。
(中国国画の流れで岩絵の具を用いるときには、岩彩と表するようですので)
その背景には、当時台湾に移り住んで絵画、芸術を教え、台湾芸術の発展に尽力した、
日本人画家の教育、その後のゆたかな国際交流の影響があるようです。
とはいえ、岩絵の具はその発色の素晴らしさ、変色しない天然顔料の神秘的な普遍性が
魅力的なのは万国共通のはず。
今企画展での陳さんの「膠彩」は繊細な猫の毛描きに加えて、
ぽってりと盛り上がるように絵具を置いた、独特の技法で、
カーペットやタペストリーといったファブリックの表現も楽しめる作品です。
作品の現物を見なければ、その絵画の魅力を体感しつくせないのは、
どんな技法の絵画にも共通のこと。
ぜひ東洋一の猫描きの「膠彩」をご覧になりにいらしてくださいませ。
チン・ペイイ個展、会期は2020年3月4日(水)までです。チン・ペイイ個展
メルマガ 日本美術そうだったのか通信Vol.387 より抜粋しています。
メルマガVol.398 東洋一の猫描き『陳 珮怡(チン・ペイイ)個展』ご案内と「膠彩画」のこと
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