特集 艶めき眩しい、夏美人

炎天に一服の清涼。
暑さも忘れる魅力的な夏美人たちの姿。
麗しい女性の表現とともに、着物や装飾の表現、花鳥草木、風景、季節の情景や時代の風俗を巧みに取り込んで、単なる人物画ではなく、より深みを増して発展してきた美人画。
そんな愛すべき華麗なる画題から、「夏」をテーマに厳選してご案内いたします。

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ー 深水美人真骨頂 ー
伊東深水「神立」
伊東 深水「神立」 価格は問い合わせください
伊東 深水「神立」 価格は問い合わせください

一天にわかにかき曇もり、稲光をともなった夏の雨が軒先に降り注ぐ。神立。
窓打つ雨と雷鳴、風鈴の音を聞きつけたのでしょうか。麗しい顔を覗かせた佳人は雨戸を閉める手も止めて、視線をどこかうっとりと空に注がれています。
たっぷりと開いた浴衣から除く白い胸元、風に靡くほつれ毛からは女性の色香が沸き立ちます。
美人画の祖型である初期浮世絵や風俗画的な要素と、あくまで美しく純化された世界観とが融合する、深水の理想美が体現された一枚です。

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ー 細部に宿る叙情 ー
伊東深水「汀の夏」
伊東 深水 「汀の夏」
伊東 深水 「汀の夏」

「汀」の字は、「なぎさ」と読むのでしょうか、それとも「みぎわ」?
辞書を引くと2つは基本的には同じ意味のようですが、「なぎさ」は波打ち際、「みぎわ」は水際、と書かれています。とすると、穏やかな川べりで涼む深水美人のこの作には、波打ち際というよりは水際「みぎわ」と読むほうがいいでしょうか…。
黒地に赤青白の文様、踵坐にかがんだ足元を見れば、こちらも透け感のある絽の目の着物だとわかります。帯はケシの柄でしょうか。大胆な取り合わせにも思える和服姿ですが、さすが深水、しっとりとした魅力も表現しています。
深水のアトリエ兼自宅には、深水美人のモデルを志願する女性たちがよく訪れたといいます。ややモダンな髪型のこの美人もそうした若い娘さんの一人なのかもしれません。

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― 江戸情趣の美 ―
伊藤 小坡「虫売」
伊藤 小坡「虫売」
伊藤 小坡「虫売」 価格はお問い合わせください
伊藤 小坡「虫売」 価格はお問い合わせください

声の良いスズムシ、マツムシや、蛍、玉虫など、屋台に虫かごをつけて売り歩いた行商人は江戸の夏の風物詩。
本作で描かれている様に、多くの屋台では市松模様がトレードマークでした。
絽の羽織に透かした、涼やかな青みの着物姿。柳の下で子供らに虫を売る行商は、背を向け、頬かむりで顔は見えずとも妙齢の美人に違いありません。
伊藤小坡といえば、この虫売りの構図を思い浮かべる方もいらっしゃることでしょう。それほど、小坡が好んで描き、またコレクターに愛好された画題です。

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― 虫に音に思いを馳せる夏美人 ―
大林千萬樹「蟲」
大林 千萬樹「蟲」
大林 千萬樹「蟲」 価格 ¥320,000(税込)
大林 千萬樹「蟲」 価格 ¥320,000(税込)

画面いっぱいの美人の立ち姿と、見つめる先の足元の虫かご。なにやら暗示的な構図の本作。虫かごにうっすら見える影はキリギリスでしょうか、長い触覚が飛び出しています。
穏やかな夏の涼の風景とともに、虫かごの贈り主を想っているとも、籠に囚われた小虫の哀れを思っているとも、美人の心情に思いをはせてしまいます。
萌黄色の着物の柄は水辺に生えるオモダカ。江戸中期頃にオモダカなど水生植物の文様が描かれた小袖が流行たそうです。
ところで、お正月に食べる「クワイ」もオモダカ科です。

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― 蛍火が照らす乙女の粧い ―
梶原緋佐子「夏姿」
梶原 緋佐子「夏姿」 売約済み
梶原 緋佐子「夏姿」 売約済み

佳人がつぶらな瞳でじっと見つめるのは、蚊帳地の麻を張った古風な蛍籠。
中では数匹のホタル火が明るく灯っています。
瞬く小さな灯火に見惚れる内に暑さも忘れる夏の夕べです。

― 瑞々しい乙女の夏 ―
甲斐庄楠音「夏すかた」
甲斐庄 楠音「夏すかた」 価格はお問い合わせください
甲斐庄 楠音「夏すかた」 価格はお問い合わせください

「夏姿」とは、夏らしい風物のようす。また、夏の服装をした姿のこと。
春姿や秋姿、冬姿とは言わず、夏だけはその風物を「夏姿」と表現するところに、夏の訪れを特別に感じていた古人が偲ばれて、なんだかしみじみと趣深いですね。
団扇を手にうつむく佳人はまだ年若く見えますが、絽目のある薄物の着物の下に透ける緋襦袢が夏らしく映え、瑞々しい色気を感じさせます。
「でろり」で表現される甲斐庄とはまた違った愛らしい美人の表現が楽しめる一作です。

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― 爪染めて願うは「比翼連理」のめぐり逢い ―
門井掬水「七夕」
門井 掬水「七夕」 価格 ¥200,000(税込)
門井 掬水「七夕」 価格 ¥200,000(税込)

「七夕」の起源は、中国の織姫と牽牛を祀った「乞巧奠(きこうでん)」に日本の棚機(たなばた)姫の信仰が結合した行事です。
乞巧奠は、機織りの巧みな織姫にあやかり、主に女性たちが七夕の晩に五色の糸を針に通しながら、機織りや裁縫の巧みになる願いを乞い祀ります。
また描かれた乙女の爪がうっすら赤く色づいているのは、七夕に爪を赤く染める風習があり、「七夕姫の爪紅」とか「ツマグロ」と呼ばれていたことに由来するのでしょう。爪紅は一節には、織姫に良縁を祈って行うのだとか。
美人画の名手、門井掬水らしい上品な叙情に満ちた作品。掬水といえば、目黒雅叙園も多数作品を有していて「掬水の間」があったことも知られます。

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― シックな彩り、傘美人 ―
加藤晨明「雨」
加藤 晨明「雨」
加藤 晨明「雨」 SOLD
加藤 晨明「雨」 SOLD

画面右上から傘に向けて一筋の雨のしずく。にわか雨でしょうか。しっかりと傘を傾けて小走りで道を急ぐ佳人の姿が楚々として描かれます。
写実を生かした清廉な舞妓像で人気の高い加藤晨明ですが、本作の下町の情緒を帯びた美人もまた白い肌が印象的で、どこか澄んだ空気をまとっているようです。
水墨を基調とした画面構成、繊細な雨の描線に、細い縞柄の着物、等身の高いスレンダーな美人の姿が呼応して、スタイリッシュにさえ思わせる情景となっています。

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― 洒脱、見立ての妙 ―
蹄斎北馬「見立宇治川先陣争 美人打蛍図」
蹄斎 北馬「見立宇治川先陣争 美人打蛍図」
蹄斎 北馬「見立宇治川先陣争 美人打蛍図」 SOLD
蹄斎 北馬「見立宇治川先陣争 美人打蛍図」 SOLD

手前の女性の団扇の紋所は梶原景季のもので、奥の女性の団扇に描かれるのは佐々木高綱の紋所です。二人はともに源頼朝の家臣。
本作は、背景の隅田川と両国橋を宇治川と宇治橋に見立てて、蛍を追う二人の芸者によって、源平合戦の「宇治川の先陣争い」が表された見立て絵の逸品です。
木曽義仲追討の宇治川の戦いで、一番乗りの功名を立てんとする景季と高綱。
先んじた景季に「馬の腹帯が緩んでいるぞ」と声を掛けた高綱。景季が騙されて腹帯を締めなおしているすきに、高綱は景季を追い越して川に飛び込み先陣を切ってしまいます。
「馬の腹帯」が画中では「女性の帯揚げ」に置き換えられて表現され、『平家物語』の名場面が夏の風物詩の蛍狩の姿となっておかしみを誘います。

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― 穏やかな水辺の憩い ―
美勝「三美人図」
美勝「三美人図」 価格 ¥350,000(税込)
美勝「三美人図」 価格 ¥350,000(税込)

陽気な着物姿の禿が小さな帆掛け船を川辺へ浮かべようとしています。遠近法も等身も無視して描かれた小さな頭の禿は、その分幼気な様子を伝えています。
代わって太夫は江戸初期を思わせる下げ髪で、上等そうな着物姿の堂々たる貫禄。
美勝の印が押された本作の作者の断定は難しいのですが、艶やかな描写で三美人を描き出しています。

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― 川辺の花、揃い踏み ―
耕雲斎 国美「舟遊図」
耕雲斎 国美「舟遊図」 価格 ¥250,000(税込)
耕雲斎 国美「舟遊図」 価格 ¥250,000(税込)

高級口紅を塗り重ね、下唇を玉虫色に発色させる笹紅。本作の三美人も揃って粋な装いに豪奢な鼈甲簪の笹紅姿。舟遊びも艶やかです。
舟遊びは江戸時代初期からすでに盛んでしたが、屋形船を使った当時の舟遊びは裕福な武士や町人のみに許された大変贅沢なもの。
とはいえ庶民にも禁止されていたわけでないので、小さな小舟に屋根を取り付けて簡易屋形船を設けて庶民向けの商いもされていたようです。とはいえ、これもなかなか高価でしたので、贅沢な遊びだったことには代わりはありません。
美人に舟遊びは合わせて庶民の憧れです。

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両国花火4連発!
日本の夏に欠かせない風物詩「花火」。

現在の隅田川花火大会のルーツ、江戸の「両国川開きの花火」。
浮世絵に描かれて生きた日本最古の花火大会とそれを楽しむ民衆。
そして花火と艶やかさを競う美人たちの姿をお楽しみください!

豊国「両国花火之図」
豊国「両国花火之図」 価格 ¥240,000(税込)
豊国「両国花火之図」 価格 ¥240,000(税込)

隅田川での舟遊びは江戸時代初期からすでに盛んでしたが、当時の舟遊びは大変贅沢で、裕福な武士や商家の旦那衆の楽しみ。
庶民は橋の上をギュウギュウにして花火見物をしていました。
よく見れば画面手前の橋の手すり付近は艶やかな美人たちが陣取り、反対側の画面奥の手すり際で花火に見入るの普段着姿の男たちのようです。剃り上げた後ろ頭が所狭しと並ぶさまは滑稽で、こうした現実を誇張したような表現も浮世絵の魅力です。

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※【浮世絵ぎゃらりい秋華洞】につながります

芳艶「両国大花火の図」
芳艶「両国大花火の図」
芳艶「両国大花火の図」 価格 ¥600,000(税込)
芳艶「両国大花火の図」 価格 ¥600,000(税込)

中央の立ち姿の女性が咥えているのは、すでに夏のおつまみとして人気だった枝豆。大豆が熟す前の柔らかく青い未熟なうちに収穫していたから「生豆」と呼ばれていたそうです。
美人が豪快にかぶりつく様には、夏の船上の開放感とあいまって、健康的な色気が感じられます。

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延一「両国花火之三曲」
延一 「両国花火之三曲」 価格 ¥60,000(税込)
延一 「両国花火之三曲」 価格 ¥60,000(税込)

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周延「両国川開の花火」
周延「両国川開の花火」 価格 ¥30,000(税込)
周延「両国川開の花火」 価格 ¥30,000(税込)

花火も霞む、あまりに艶やかな明治の船上女子会。
明治期に入ると、隅田川に屋形船を浮かべて納涼を楽しむ、裕福な武士や大名がいなくなったことから、「両国川開の花火」は一時かつての賑わいを失って行くこととなります。しかし、代わりに台頭してきたのは文明開化で生まれた会社の社長や重役、サラリーマンたち。
舟の上での納涼は接待や余興として次第に庶民の楽しみとなって、今に続いていきます。

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― 風に宿る夏の予感 ―
岡本東子「黒南風」
岡本東子「黒南風」 Sold
岡本東子「黒南風」 Sold

「黒南風」(くろはえ)とは、梅雨のはじめに吹く南風。あるいは、どんよりとした梅雨の長雨が続く時期に吹く湿った南風のこと。
たぷりと水気を孕んだ仄暗い風は、今は陰鬱な心を誘うかに感じられますが、来たるべき朱夏に蠢き溢れ、生え渡る生命の息吹をも運んでくるのです。

― 時をとめる爽涼 ―
岡本東子「涼」
岡本東子「涼」 価格はお問い合わせください
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彼女を包む清らかで澄んだ空気。
目が合えば一瞬で時が止まり、夏の暑ささえ忘れてしまう。

SHUKADO CONTEMPORARY 作家
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美人画コラムでも紹介しています。
関連記事:店主 田中千秋の美人画コラム 08 岡本東子 (おかもととうこ)

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