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「近代美術/銀座 ~近代の美人画展~」(2025/2/4~2/8 於:銀座ぎゃらりい秋華洞)で展示されております、
竹久夢二、鏑木清方、伊東深水、甲斐荘楠音など、近代美人画の巨匠たちによる珠玉の作品をご紹介します。
彼らが描く優美で繊細な女性像は、伝統と近代が交差する日本独自の美の結晶です。
作品は、展示作品は販売も行っておりますので、この貴重な機会に、美人画の魅力を感じ、ご自宅にその美をお迎えください。
新しく美術品をコレクションしたい!
もっとコレクションを充実させたい!とお思いの皆様へ
2025年2月4日~2月28日までの期間にご注文くださった方には
表記価格より15%割引にて販売いたします!
秋華洞へのご来廊もお待ちしております。
鏑木 清方「岸の柳」
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「若葉にかへし唄女が 緑の髪に風薫る 柳の眉のながし目に―」と歌われる『岸の柳』は、
大川端(隅田川河畔)の柳橋あたりの江戸情緒と夏の風物を描いた瑞々しく粋な長唄である。
作詩されたのは、太陽暦が採用された明治6年のため、旧暦で江戸風俗を写した最後の唄とも言われるが、はたして清方はそれを知っていたのだろうか。
振り袖を風になびかせ、小舟から流れる本所の景色を心なしか眩しそうに見送る佳人の視線は、過ぎ行く江戸風情へ清方が向ける思慕と憧憬とにどこか重なり合うように思われる。
鏑木 清方「雪裡紅梅」
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一面を真白に染める雪景色に漆黒の振袖姿が一際映える。
加えて、効果的に赤色が用いられた娘の装いは、寒中のほころぶような紅梅とよく馴染み、双方に健気な美しさを引き立てあっている。
写生を重んじ、人物描写に季節の植物や風俗を巧みに融和させる清方らしい風韻の一作。背後でこんもりと雪をいただくのは松だろうか、着物に描かれた竹の葉模様も相まって、松竹梅の「歳寒三友」に美人を加え、慎ましくも艶やかに春の訪れを寿いでいる。
竹久 夢二「はじらい」
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描きぶりと落款から大正3年から5年頃の作品と思われる。
袖を口元にやり微笑むその姿はなんとも言えず愛らしい。
この時分夢二は本妻のたまきと恋人の笠井彦乃の両方をモデルにしているが、顔付やこの「はじらい」具合からして年若い彦乃であろうか。
モチーフは、ふたりの出会いの鮮烈さを象徴しているように思われる。
赤と白のモザイク状の着物柄も女の可愛らしさを引き立てている。
伊東 深水「みぞれ」
「美人画」全盛期を象徴するのが、この伊東深水である。
女性画はかつて低く見られがちだったが、松園・清方・深水らの献身により、広く社会に認められるようになった。
「傘美人」はもっとも人気のある典型的な構図で、
ここで画家ならではの妙味を見せるのが勝負所。巨匠の風格が漂う出来栄えである。
みぞれ混じりの雪が降り始めたばかりなのだろう。
傘を差し掛ける娘の仕草に静かな動きを感じさせる。
雪の白が映えるよう配置された墨色のショールになんとも言えぬ暖かみがあり、その赤い水玉模様にモダンさがさりげなく表されている。
伊東深水「春宵」
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白く咲き誇る桜の背後には霞がかった月が浮かび、ほのかな光が辺りを包みこむ。
桜の下を歩む芸者は口許に手拭いを咥え、着物の褄をとって赤い襦袢が覗く粋な姿。目元や頬は赤く染まり、儚げな色香を添える。
特徴的な朦朧体をいかした、深水の艷やかな情緒に満ち溢れた一幅。
上村 松園「春窓美人」
柔らかな眼差しが追うのは一匹の白い蝶。
その香に誘われて、蝶が付き従い舞い遊んだと伝わる長安の美姫、楚連香の姿を見立てたのであろう。
円山、四条派が得意とし、松園自身も度々描いた唐美人の画題である。
しかし本作では、明清時代に好まれた「円窓仕女図」を踏襲した構図に、画家の中国古画研究の成果を十分に匂わせながらも、佳人は勝山髷を結ったいかにも愛らしい和美人として描き出されている。
顔はわずかに微笑みを浮かべ、観者さえその妙なる香りで魅了しているようだ。
鏑木 清方「春立つ浦」
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昭和31年、清方78歳。
鎌倉に移住してじき十年がたとうとする頃の作品である。
「お正月は東京でしなければどうにも形がつかない」 (昭和22)とまで語っていた清方が東京で暮らすこと無く春を描いた本作。
色とりどりの貝を手に取る瀬川帽子の美人は海辺を楽しみながらどこか過ぎ去った日々を懐かしむようであり、優美な線と描かれた文様は完成された様式を示す。
「昔の鎌倉は江戸の蜃気楼だつた」(昭和29)維新と戦争によって失われていった江戸の風情を追い続けた清方渾身の作である。
小磯 良平「婦人像」
力強くも確かな筆さばきでもって、モチーフに真正面から向き合った本作。
画面にモデルだけを描き出す大胆な構図には一片の迷いも見られない。
目にも鮮やかな赤のコートが視界の大半を占めるが、的確な明暗表現により観者の視線は女性の表情に惹き付けられる。
思案するような目元と僅かに笑みを浮かべる真紅の唇は、モデルの内面的複雑さまでも余さず描き出そうとする画家の決意までも印象付ける。
「最も脂の乗った時期だった」と語る小磯の旺盛な筆による、情熱的で雄渾な一作である。
竹久夢二「舞姫 画賛」
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京都の風俗を愛し、短い期間ではあったが八坂のあたりに居も構えていた夢二。
中でも舞妓は夢二が非常によく好んだ画題で、扇子を口元にかざした構図は度々描かれている。
舞妓は上品に扇子をかざしながらも、わずかに白い首筋が艶やかさを一層強め、柔らかな筆触、着彩は享楽的な文章とよく調和している。
「いさぎよく散れ」の文言は、一夜限りの楽しみから、舞妓のあまりにも短い花の盛り、そして夢二の壮絶な生きざまをも偲ばせる。
本紙の読みは「光一(ぴかいち)の祇園の桜舞姫の金の扇にいさぎよく散れ」
東郷 青児「ネックレス」
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「ネックレス」という女性像を東郷は数多く描いている。
東郷の女性像はしばしば伏し目がちに描かれるが、
ネックレスをつける時だけはその長いまつげに覆われた瞳が上を向く。
その仕草はツンとした顎のラインや鼻筋と相まって、東郷作品らしい麗しさを一層強調している。
パールに触れる長い指の繊細さや、プラチナブロンドの髪と暖色のドレスのリズミカルな色彩は画面に瀟洒な趣をもたらし、普遍の美人像を印象付けている。
伊東 深水「八仙花」
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ほの暗い梅雨の東屋でひとり、俯きがちに遠くを見据える女性。
薄く重なる着物、四季の花々で彩られた可愛らしい色合いの帯は涼しげで軽やかな雰囲気だが、団扇を握る手には指輪が見え、落ち着いた佇まいの中に色香を纏う余情が感じられる。
風俗の中に物語を描くことを目指した深水が、「八仙花(紫陽花)」に寄せた叙情性をうかがえる一作。
高畠華宵「美人」
高い鼻に細い顎の西洋風の面立ちに、和髪姿のアンバランスさが返って婀娜やかに感じられる華宵美人。
芝居好きで歌舞伎や浮世絵の世界観も好んだ抒情画家華宵ならではの情緒と粋が融和している。
素肌を透かす紺地の着物は絣文様で、浮世絵にもよく見られる夏衣装。
華宵デザインの「華宵浴衣」が売り出されるほど装いにこだわっていた華宵らしい一作。
大林 千萬樹「白梅美人」
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江戸風俗に取材した作品を得意とした千萬樹。
本作の美人は目元や口許に独特のぼかしを施した柔和な面持ちで、優美な立ち姿が縦長の画面に映える。
着物の裾を広げた着こなしから場面は室内と察せられる。
小さな愛らしい白梅をつまむ指先はほんのり赤らみ、女性の心情にも想いが馳せられよう。
甲斐庄 楠音「夏すかた」
昭和初期の楠音は女性を歌舞伎絵に重ねて描く作品を多く手掛けたが、昭和3、4年以降は同時代風俗を題材とした半身の女性像へと移行した。
本作では団扇を携え涼みながら、ちらりと目線を外す小粋な瞬間を切り取る。
大きく抜いた襟元からは真白い首筋が覗き、赤襦袢が透ける着物とともに色香を醸している。
伊藤 小坡「紅葉の頃 雪の朝」
秋を尽くした着物を纏い、楓の前に佇む女性。
口角をあげ、楽しげな表情を浮かべている。
落葉を一枚つまむ指先が愛らしい。対になるのは、傘を差して雪の中を歩く女性。
鳩羽色の着物には福寿草や若松があしらわれ、初春の訪れを感じさせる。
ふっくらとした豊かな頬は、晩年の小坡好みの顔立ちである。
紅葉と空色の着物の調和、雪の白に映える口紅や点々と咲く梅の色の響き合いは、類稀な感覚に基づく小坡の優美な色彩の極である。
岩田専太郎「スタイル」
微笑を浮かべながらこちらを見とめる麗人。
振り向きざまにか、ふいた風と日を受けてなびく髪、ゆるやか且つ明瞭な描写でもって置かれる肢体など、忠実に細部を描く人物とは対照的に、背景には軽やかな抽象風景が続く。
トップモデルの撮影シーンの如く、岩田専太郎のセンスを発揮した一枚。
想像力が掻き立てられる一作である。
梶原緋佐子「美人」
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裾を引く桃色の着物を可憐にまとい、地に赤い糸を垂らす端正な姿をのぞむ立ち美人。
浜辺で貝を釣っている様子だろうか、特徴的な仕草ながら画題の決定には至っていない。
なめらかに引かれた主線には呼応するように朱色が置かれ、整然とした雰囲気の中にあどけなさも感じられる一作である。
画題にお心あたりがございましたら是非ご連絡ください。
北野恒富「秋日」
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はらりと舞い散るひと片の紅葉に目を留める佳人。
昭和期の恒富は画業初期の妖艶な美人画から離れ、同時代風俗に取材して写実的な作風に転じた。
本作では渋色の着物や傘に深みのある赤い葉が映え、色彩感覚が冴えわたる。
端正な面持ちの女性はどこか憂いを帯びた表情で、風情が漂う。
川合玉堂「少女納涼図」
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山水風景を多く手掛けた画家には珍しい人物画で、活躍目覚ましい30代の作。
『文芸倶楽部』第9巻第12号(明治36年9月刊)の木版口絵「すず風」には、同じく青い撫子柄の浴衣に赤い帯を締めて腰掛ける少女が描かれる。
本作の少女は胸元が緩み後れ毛を垂らすなど、より寛いだ姿。団扇を携える手は心許なく、彼方を見つめる視線はどこか儚げで、同時代の日常を玉堂らしい情緒あふれる姿で描き出している。
伊藤 小坡「軒しのぶ」
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