作品解説
霧に揺らぐ奥深い山を背に、丹念に毛描きされた虎はゆったりと体を横たえ、ここに「敵なし」といったところでしょうか。描かれた大正2年の前年から須磨に移住した翠石。この後、濃密な背景描写が特徴的な「須磨様式」を確立してゆきますが、結核療養中でもあったこの時期には、生死を意識させる作品も見受けられ、こうした翠石の心境が雄々しいのみではない虎の姿や余情溢れる画面を生み出したのでしょう。
大橋 翠石(おおはし・すいせき)
慶応元(1865)岐阜~昭和20(1945)愛知 日本画家。本名卯三郎。戸田葆堂、天野方壺、渡辺小華らに師事。洋風を加味した写実的な作風を確立、虎などの動物画を能くした。パリ万国博覧会、米国セントルイス万国博覧会、日英博覧会金牌受賞。