作品解説
釣燈籠の光に照らされ、はらはらと舞う桜に振り向く佳人。簪を気にかけ、左手は懐紙に添えています。強い風が吹き、群れ散る花びらに思わず目を奪われたのでしょう。少し開いた口元からも、感興が伝わります。小坡は歴史風俗研究の経験を活かし、同時代女性の日常生活にも焦点を当てました。ふとした瞬間の心の機微を巧みに描いた作品です。
伊藤 小坡(いとう しょうは)
明治10(1877)三重~昭和43(1968)京都 日本画家。夫は日本画家の伊藤鷺城。はじめ森川曽文に学び、のち谷口香嶠に師事。第9回文展で初入選し、以来主として官展に出品し続けた。竹内栖鳳の竹杖会に入り、上村松園と並ぶ閨秀画家として知られた。