作品解説
細くよった紐を咥える女性の視線が物思わしげに彷徨う。乱れた髪の墨のぼかしは影との境を曖昧にし、淡い輪郭線と相まって彼女の存在感を危うくする。黒い髪と着衣で際立った白肌は鮮やかな紅に染まり、泣きはらしたかのような目元の朱と鮮やかな唇が一際艶めかしい魅力を演出している。右手薬指に光る指輪さえ彼女が抱える状況を暗示するようだ。深水の巧みな色彩感覚と確かな筆さばきが女の強い情念を描き出している。
伊東 深水(いとう しんすい)
いとう・しんすい 明治31(1898)東京~昭和47(1972)東京 日本画家。
本名一。中山秋湖、鏑木清方に師事。美人画において浮世絵の伝統のもとに現代風俗を主題とした新しい画境を築いた。帝展・新文展・日展審査員、日本芸術院会員。帝展特選、日本芸術院賞受賞。