作品解説
柔らかくも生き生きと青色が画面全体に染み入り、一見夜景ともとれるような情趣を秘めた新宿の街並みが立ち表された本作。時には対象も支持体も問わずただ描くことを求めた利行を惹きつけ射止めた風景であったのだろうか、彼はこの絵を描いた翌年には新宿四谷旭町の木賃宿に移り住み、同題でよく知られ晩年の優品と評された一点の油絵を残している。そのごく限られた色数と淀みのない筆跡の中に、奔流する感興を逃すまいと描き留めた画家の姿が窺い知れる一作である。
長谷川 利行(はせがわ としゆき )
明治24(1891)京都~昭和15(1940)東京 洋画家、歌人。中学時代より文学に傾倒し、上京後は大衆小説『講談雑誌』に小説を発表する傍ら絵画制作に励む。晩年は放浪生活を続けながら個展などでフォーヴィズム的画風の作品を発表した。新光洋画展入選。