作品解説
秋を尽くした着物を纏い、楓の前に佇む女性。口角をあげ、楽しげな表情を浮かべている。落葉を一枚つまむ指先が愛らしい。対になるのは、傘を差して雪の中を歩く女性。鳩羽色の着物には福寿草や若松があしらわれ、初春の訪れを感じさせる。ふっくらとした豊かな頬は、晩年の小坡好みの顔立ちである。紅葉と空色の着物の調和、雪の白に映える口紅や点々と咲く梅の色の響き合いは、類稀な感覚に基づく小坡の優美な色彩の極である。
伊藤 小坡(いとう しょうは)
明治10(1877)三重~昭和43(1968)京都 日本画家。夫は日本画家の伊藤鷺城。はじめ森川曽文に学び、のち谷口香嶠に師事。第9回文展で初入選し、以来主として官展に出品し続けた。竹内栖鳳の竹杖会に入り、上村松園と並ぶ閨秀画家として知られた。