2019-01-25日本美術そうだったのか通信
Vol.389 『トリを描く・トリを愛でる』展から「鶴」について

今号の「そうだっのか」は本日から始まっ『トリを描く・トリを愛でる』展から
」についてのそうだっのかをご案内いします。

まずは『トリを描く・トリを愛でる』展のご案内から。
会期:2019年1月25日(金)~2月3日(日)

場所:ぎゃらりい秋華洞
時間:10:00~18:00 会期中無休
入場無料 展示販売いします

展示作家:伊藤若冲、歌川広重、竹内栖鳳、川村清雄、川合玉堂、
小原古邨(祥邨)、木村武山、榊原紫峰、宋紫石、棟方志功 ほか

詳細はこちら↓↓

https://www.syukado.jp/exhibition/2019-01/

本展覧会でも展示する鳥には
鶏、軍鶏、雀、オオルリ、、鶯、鶉などなどございますが、
皆様はどんな鳥がお好みでしょうか?

日本美術史では「鳥」のエピソードは事欠きません。
例えば、「栖鳳雀」ともよばれ、多くの愛好家にその絵がもとめら竹内栖鳳の「雀」。
河鍋暁斎がライフワークのように生涯描き続け、枯木にとまっ「烏」。
庭に放し飼いにし、ひすら写生し続けという伊藤若冲の「鶏」
は、自宅に禽舎を設けて幾羽もの鳥を飼育しては日々写生を行
榊原紫峰や上村淳之などの鳥を愛し作家ち…。

ところで、そんな数多くの作家に愛され、題材とされてき「鳥」のなかで、
一番多く描かれ「鳥」はなんなのでしょう。
現存しない作品も数多あるでしょうから、正確な答えは出しづらいですが、
新旧作家を限らず、歴史に名を残す大作の中では、
特別存在感を放ち、最も多く描かれてき鳥は「」ではないでしょうか。

ということで、本日は、の「そうだっのか」をお送りいします。

本企画展では「」の画題として、若冲の《梅に図》(←常設予定)、
土佐光貞の《千羽》(←掛け替え予定)を展示いします。

若冲の作品は、ころりとまあるい卵型の体に首を埋めて堂々と直立する
の姿が大胆で、潔ささえ感じさせる逸品です。
かつて、夏目漱石が『草枕』のなかで、画家である主人公に
「若冲の図は大抵精緻な彩色のものが多いが、このは世間に気兼ねなしの一筆がきで、
一本足ですらりと立っ上に、卵形の胴がふわっと乗っかっている様子は、
はなはだ吾意を得て、飄逸な趣は、長い嘴のさきにまで籠もっている」と
語らせています。まさにそのの図を思わせる描きぶりの一幅。
是非ご覧あれ。

江戸時代後期の絵師、土佐光貞の《千羽》は
皆さんご存知、頭頂部の赤くて胴の白い丹頂と、
目の周りが赤くて、胴体が黒っぽいナベヅルの二種類が描かれているのがわかります。
千差万別のポーズをとっが、土佐派の大和絵調で描かれ大変目出度い作品です。

はもちろん鳥の中でだけでなく、吉祥の画題の代表格です!
は千年、亀は万年」と言われ、人生の節目となるおめでい席には
必ずと言っていいほどに登場する、長寿の象徴「」。
もちろん、実際には千年も生きているわけではないのですが、
その寿命は40年前後(動物園での飼育下では50年以上!)と言われ、
日本に生息する鳥の中では圧倒的に長生きの部類です。
(ちなみに、雀、鶯、シジュウカラなど小禽は1~3年ほどと短く、マガモ20年前後、
鷹や鷲は20~30年くらいの寿命とされているようです(諸説あり))

かつての人間の寿命が30~40年ほどだっことを考えると、確かに長寿の鳥です。

は千年、亀は万年」という言葉は、前漢時代の淮南子(淮南王劉安:紀元前179?~紀元前122)
が編纂し『説林訓』に、「歳千歳、亀歳三千歳」とあるのに由来し、
ここから日本では語呂がいい言葉へと変化していっようです。
亀と共に仙人に使える生き物として、を特別と位置づけるこの一説が書かれています。

中国では丹頂のことを仙とも呼び、鳳凰に次ぐ高貴な鳥とされていまし
鳳凰は想像上の聖獣ですから、実在の鳥のなかでははトップの瑞鳥なわけですね。

さて、仙人に仕えると思われていですが、
費長房、王子喬、黄楼などは、の背に乗って空を移動しといいます。
そういっ仙人を仙人というそうで、延命長寿の思想を体現する仙人がの背に乗っ
「控仙人」の図は広く親しまれ画題となりまし
、仙人がに姿を変えて天に登っていくという逸話もありますから、
は仙人の世界へ行くめの乗り物、あるいはそこを行き来できる仙禽として、
特別な存在なのです。
日本ですと、浦島太郎が玉手箱を開けてになって空へ飛んでいく
という結末のものもありますね。

さらに、長寿に加えて、は一度つがいになるとほとんどの場合で相手が死ぬまで
生涯夫婦を続けることから、夫婦円満の象徴でもあります。
夫婦円満といえば「鴛鴦(オシドリ)」が思い浮かびますが、
実際には鴛鴦は、毎年パートナーを変えていますので、
いかにが一途で、夫婦愛の強い性質かがわかりますね。
「鳴き交わし」やぴょんぴょんと飛び跳ねるダンスといっ独特な求愛行動も
愛情深い夫婦の姿を思わせます。

ところで、日本ではは長く食用としても珍重されていまし
江戸時代には徳川幕府から朝廷へ年賀の式に合わせてが献上されています。
この風習は、正月17日(のちに19日)に宮中で行われてい丁式に、
豊臣秀吉がを献上しことから習慣化されようで、包丁と呼ばれるようになりまし

庶民が自由にを捕らえることは禁止されていようですが、
江戸時代の頃「三鳥二魚」(鳥は、雲雀、鷭(バン)、魚は鯛、鮟鱇のこと)
という言葉もあり、五代珍味の一つとして庶民にも知られていうです。
ちなみに、「がんもどき」は鳥の「雁」の肉をマネて作っ豆腐料理ですが、
もどき」という炒り豆腐を油であげ料理があっほどです。

古くは縄文時代の集落の近くでの骨が多数見つかっていることから、
(食用としてもですが)と日本人との関係の歴史は長ーいのです

見てよし、鳴き声よし、食べてもよしの素晴らしき
もちろん数々の美術品の画題としても一級の縁起物です。

最後によく見られるの画題について

◆松図(松に
青々とし葉を茂らせ松幹の傍らにが描かれることもありますし、
松の周りを飛びゆくが描かれている場合もあります。
、青々とし松の梢でが羽を休めている構図もよく見られます。
が、実は水辺や湿地に生息するは、松や高い木の上にとまることはないのです。
中国唐代にはすでには松にとまるものとして詩に詠まれりと、
その思想が広く定着していましが、
これは、首が長く遠目でに見えなくもない「コウノトリ」の
木の上に巣を作る習性と混同しのだろうと言われています。
禅語に「松花伴飛」(松花、に伴って飛ぶ)という、
なんともお目出度いような一説もあります。

◆林和靖(りんなせい)
林和靖は中国宋時代の詩人。世俗との関わりをち、妻子も持
かわりに梅を妻のように愛し、 を子どものように可愛がって隠遁の生活を
送っという逸話の持ち主。
このエピソードから、風雅な生活を送ることを「梅妻子」という言葉が生まれまし
広く知られめ、日本画でも多く描かれています。
ポイントは「老人」と「」と「梅」が一緒に描かれていら、
もうほぼほぼ「林和靖」。
狩野派にも、近代の日本画家にも数多く描かれ林和靖。
美術館などの収められているものはタイトルがずばり「林和靖」であることが
多いですが、古美術やさんや、骨董屋さんでタイトル不明の掛軸のなかに、
この3つのモチーフがみつかっら、自信を持って
「これは、林和靖という詩人で~」と作品のポイントをお連れ様に語ってくださいませ。

ちなみに、歴史上の偉人や仙人、仏様などや古典の題材を当世風に
なぞらえることが大好きな日本人。
鈴木春信の浮世絵にも老人を可憐な女性に置き換え、と梅を配置
《見立林和靖》とうものもあります。

」一羽とっても語ること多数で、無限に広がる鳥の世界。
皆様のお好みの鳥、新しく「あ!」と驚く出会う鳥に
出会いますように。
会場でお待ちしています。

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