2005-03-14日本美術そうだったのか通信
Vol.39 熱血!翠雲最終回

□■□■  「日本美術そうだったのか通信」 Vol.39
発行 有限会社アートオフィスJC・秋華洞
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<本マガジンの説明>
日本美術の鑑賞界のホットニュース、古今国内東西の作家のエピソード、美術業界
裏話など、日本美術をより楽しむための情報をお届けします。
アートオフィスJC・秋華洞提供。
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こんばんわ、アートオフィスJC・秋華洞の田中千秋です。

今週は、お客様宅への出張がたまたま重なり、このメルマガ本号発行は、遅れ
に遅れ、ついに本日、日曜日の発行になってしまいました…。

どれだけ読んで頂けるのか、不安におののきつつ書いております。

しかし、今回も、気合いを入れておりますので、どうぞお目通しをお願い致し
ます!

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さて、今週のアタマには、さる東京の住宅地に、素敵なお品を分けてもらいに
伺いました。その方は、江戸末期の儒学者の子孫に当たる方で、非常に多くの
文人・学者の書画を持っていらっしゃいました。

私ども、古画(江戸時代以前の書画のこと)をやる美術商としては、垂涎の軸
物だったのですが、いかんせん、私ども以上に、ご主人の思い入れが深く、一
回目に買い取り見積もりに伺ったときも、値を入れるのが大変だったこと!

ご主人の思い入れがあるのは見て取ってわかるので、父がなるべく配慮して値
を付けていくのですが、そのたびに「えー?!」「そんなバカな?」「冗談で
しょう」「お上手だね」「お父さんみたいに、なっちゃいけないよ」

ということで、おそらくは普通の書画屋さんの倍以上の値段になってしまいま
した。他の合い見積もりには当然買って、私どもに分けて頂いたのですが、今
は赤字の恐怖に震えております。。。。

しかし、ビッグネームがいくつかあります。小林一茶、中江藤樹、佐久間象山、
堀部安兵衛、水戸斉昭、などなど。ただいま整理しておりますが、この中で、
おんらいんぎゃらりい秋華洞の方でも、いくつかご紹介できるものもあるかと
思いますので、お楽しみに。。。(なかでもお勧めは、水戸斉昭の書状軸です。
すばらしい筆跡です。)
ちなみに現在私どもで所蔵・展示している水戸斉昭(水戸烈公)作品
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rfcy0b8kw7sjtlf

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本日も新入荷情報をお届けします。
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■三輪晁勢『桜花の美』
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端正な花鳥画が眼に優しい、三輪晁勢の作品です。
新潟出身の晁勢は、京都・堂本印象の元で絵を学びました。その妹と結婚した
ので、印象の義理の弟でもあるわけです。
この作品は紙本(紙に書かれた作品)で、繊維をすき込んだ独特の和紙を用い
ています。落款のわきにある線は「ホコリ」ではなく、紙の模様です。

優しく華やかでつつましく、当店のイメージにピッタリの作品かなと、勝手に
番頭の私ご満悦。

■西村龍介『映日(ノルマンディー)』
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rhcy0b8kw7sjtlf
先月21日、85歳でこの世を去った西村龍介先生の作品です。点描を応用し
た淡い色調で、森と湖に囲まれたヨーロッパの古城を描き続けて、高い評価を
得ました。

本作は、湖水の描写も美しく、色あいも豊かで、先生の真骨頂のあらわれた一
作です。

■奥村厚一『立つ雲』
京都生まれ、京都育ちで、西村五雲に師事した奥村厚一の作品です。
本作は絹本・額装の日本画ですが、草木・田畑の色遣いが美しく、小野竹喬を
彷彿とさせます。
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409ricy0b8kw7sjtlf

■中島千波『春輝神田の大糸桜(シルクスクリーン)』
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rjcy0b8kw7sjtlf
当店初登場のシルクスクリーン版画です。今まで一年近く在庫していたのです
が、ようやく皆さんにお見せすることが出来ました…。(アップロードする
時間がとれませんでした)
中島千波先生は、全国の桜名所をたずねて、桜シリーズといってよい作品群を
描いています。
本作は、山梨県小淵沢・神田(しんでん)の有名な大糸桜を描いたもので、
http://www.kobemap.com/sakura/s_data/024.html
長辺が80センチ、25号の大作です。この春に、大きなリビングや、応接室
にお勧めです。
これが本画・肉筆なら小売価格で、800万から1200万くらいすると思い
ます。まずは版画で楽しまれてみては如何でしょう。
(今後、中島先生と澁澤卿先生の版画作品を追加する予定です。)

作品はいずれも一点限りです。お問い合わせ・ご用命はお早めにお願い致しま
す。
なお、すべての作品は、東京・銀座六丁目、電通通り沿いの、弊社アートオフィ
スJCで御覧になれます。ただし、商談中の作品や展覧会への貸し出しなどの
ケースもございますので、なるべく事前にご連絡下さい。また、スタッフ出張
により御覧いただくことも出来ますのでご遠慮なくお申し付け下さい。

<弊社開廊時間>
平日 10:00-18:00
土曜 10:00-18:00(ただし土曜日は都合により閉める場合がありますので、
事前にご連絡を。)
日曜休廊
※平日にお越しの方には、当店自慢の美人秘書(?)がお茶をお入れします!

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小室翠雲、最終回です。

これまで、群馬や東京での明治期特有の牧歌的な青春をお届けしてきました。
小室翠雲 その1
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rlcy0b8kw7sjtlf
小室翠雲 その2
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rmcy0b8kw7sjtlf
小室翠雲 その3
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小室翠雲 その4
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rocy0b8kw7sjtlf

「日本美術そうだったのか通信」バックナンバー
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rpcy0b8kw7sjtlf

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「熱血!小室翠雲」その5(最終回)
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今回は、なぜ、翠雲が大観・玉堂と肩を並べる偉い画家になったか、というあ
たりと、同時に、敵の絶えない翠雲の生き方にふれてみたいと思います。

田崎草雲という、幕末の志士のあらあらしさを心奥にりゅうりゅうと含んだ隠
者たる師に、おそらく心底、惚れぬいた翠雲ですが、草雲死後、ひとり上京、
独学で南画の神髄を究めていきます。

第二回文展以降、続けて出品、第七回(大正二年、翠雲数え年で40歳)出品の
「寒林幽居」で二等賞、宮内庁買い上げ、翌年から審査員となり、画壇での地
位を不動のものにします。

そして翠雲は、維新前後に伝統の模倣と弛緩に陥った南画に、媚びを捨てて真
を求める姿勢と繊細で新しい感覚を吹き込んで、南画の地位と生命をよみがえ
らました。

・・・というと、上京して貧乏ながらも女遊びもして、スイスイ偉くなってし
まって、ハナシとしては面白くないのですが、私は、翠雲の真骨頂は、画業も
さることながら、実際家として事業を推進してしていくエネルギーではなかっ
たかと思います。

まず、大正10年に矢野橋村などによって京都で創立された日本南画院に東の
翠雲が参加、その画力とエネルギーで南画院の支柱となっていきます。

さらに、昭和7年、「南画鑑賞会」を設立、一般の人に南画の「味わい方」を
啓蒙する運動を行います。

著書の多さも特徴的ではないでしょうか。

たとえば日本画壇の巨人、横山大観の著書を調べてみると、自身で書いた文章
と思われるのは、『大観画談』『大観自叙伝』の二冊くらいかと思われるのに
対して、

翠雲は『画集をかねた新南画の描き方』『翠雲随筆』『翠雲炉辺画談』『
田崎草雲』『南画新論』『南画読本』『日本画と洋画入門』『黙契帳』
などなど、ちゃんと自分で文章も書いています。(啓蒙的な内容が多い印象を
持ちます。)

大観が再興美術院をリードしたにもかかわらず、どこか一匹狼だったのに比べ
て、翠雲の場合、組織を実際に盛り上げ、一般に啓蒙もし、南画精神を「日本
の精神」として高める実際的努力を行った、といっていいように思います。
「南画」を明治・大正・昭和の社会で、無視できない存在であらしめた功績は、
翠雲に負うところ大だったのではないでしょうか。

だけど、ケンカも多い。

いや、「だから」、ケンカが多いのでしょうか。

実は、第一回文展では、美術学校中心で、歴史ある美術協会一派を排除したこ
とに反発し、反対の旗印を挙げます。

題して「正派同志会」。委員長、荒木十畝。副委員長、わが翠雲。

荒木十畝の作品一覧
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rqcy0b8kw7sjtlf

もちろん彼らは不出品、各新聞社を歴訪して意見を述べ、「文展反対演説会」
を開きます。

ところが、一度「文展不出品」に賛成しておいて、変節した人もありました。
その一人、田中頼璋。

田中頼璋の作品一覧
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rrcy0b8kw7sjtlf

これを十畝と翠雲で責めに行きます。

頼璋「出したくはないのだが、出さぬと後援者が承知せぬので致し方ない」
翠雲「然らば、500人の同士に対して絶好状を出せ」
談判したが埒があかないとみて、
翠雲「そんなら、盆へ睾丸を切って出せ。」

おお怖い。

あるいは翠雲が内閣の友人(高橋光威)を訪ねて遊びに行ったときに、ひょん
なきっかけで出来た、首相の原敬の書と翠雲の富士の絵の合作となった絵があ
りました。

これが巡り巡って画商の手に渡り、原敬の熱烈なファンに三千円で売れたので
すが、ある宴会の席でそれをあつかった画商が「三千円で売ったのは偉いもの
でしょう」と自慢をしました。

翠雲はおもしろくない。
「驚く相場じゃないだろう。富士山は世界一、原さんは名宰相、我が輩も南画
の第一人者だ。一人宛にするとたった千円にしか当たらぬではないか」

こんなことを言ってふくれる翠雲もカワイイですが、横にいた松田源治という
政治家が「小室、貴様生意気だぞ」「何が生意気だ」とケンカになり、後の文
展改組問題のときにまでもつれこんだらしいとのこと….。

参考リンク:原敬
http://www.odette.or.jp/citykankou/ka_c_se_ha_i/ka_c_se_ha_i.html
参考リンク:松田源治
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/M/matsuda_g.html

そのほか、火事場で先頭に立って火消しをやってみたり、碁敵、高橋光威に腹
を立てて碁盤をひっくり返してみたりと、血気さかんなエピソードには事欠き
ません。(この点、師匠の田崎草雲に負けません。ちなみに、手のつけられな
い乱暴者と恐れられた、この師の青春もとりあげることになるでしょう。)

参考リンク:高橋光威
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/T/takahashi_mi.html

南画家どうしの確執も激しく、翠雲、矢野橋村の南画院ペアを松林桂月、橋本
関雪が批判してみたり、翠雲のワンマンぶりに反発した橋村との争いと帝展改
組もからんで昭和11年、日本南画院が崩壊したりと、和気あいあい円満にと
いかない翠雲と南画家たちだったようです。

参考リンク:橋本関雪の作品一覧(秋華洞および山種美術館)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rvcy0b8kw7sjtlf
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rwcy0b8kw7sjtlf

さて、時代は相前後しますが、翠雲は大正6年(数え44歳)、箱根に画室を設
け、近くの「長興山紹太寺」にちなんで、「長興山房」と名付けます。

参考リンク:長興山紹太寺
http://www.choukouzan.com/

それ以降、もっぱら「長興山人」の号を用います。俗説では「すいうん」が
「衰運」に通じるので改めたという説もアリ(弊社会長談)。

昭和12年、64歳の時に一酸化中毒で倒れるまでの「長興落款」の二〇年間が、
翠雲の気力、画力とも最も充実した時期といえるかもしれません。

昭和20年、翠雲は胃腸障害で亡くなります。享年72歳でした。

「風流飄逸を楽しむ傍ら天地有情の真諦(しんたい)にふれて、あるいはこれ
を法明の垂訓だと心の中深くうけいれ、もって大成の道をふむこともできる。
墨筆は運用すべきものであって活用すべきものではない。活用しようとすると
勢い多作を生じ売絵師となる。職業画家に堕するを慎む。」

・・・(田中の現代語訳)<南画とは、風流で飄逸な味わいを楽しむと同時に、
この天地に情の宿る真実にふれて、このことを宇宙の深奥からくる教えとして
心の中にふかく受け入れることでもある。そういう心境を経て、人間として本
当に大成することも出来る。

絵を描く筆は素直な心のままに運ぶものであって、たんなる道具ではない。た
んに道具として利用すれば、むやみに多作となって、生活のためにのみ絵を売
ることになる。たんなる職業画家になるのは慎むべきである。>

昭和八年出版・小室翠雲著「画集を兼ねた 新・南画の描き方」15章「南画道」
より。

参考リンク:
小室翠雲の作品一覧(おんらいんぎゃらりい秋華洞)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/409rycy0b8kw7sjtlf
小室翠雲の作品一覧(山種美術館)
http://www.yamatane-museum.or.jp/html-database/ka-gyo/komuro-suiun.html
オールアバウトドットコム・小室翠雲
http://allabout.co.jp/entertainment/japanesepaint/closeup/CU20011127O/
群馬県立美術館・「本県ゆかりの作家たち・小室翠雲」
http://www.mmag.gsn.ed.jp/collection/honken/komuro.htm

参考図書
・『本朝画人伝』(村松梢風著)第六巻
・『翠雲炉辺画談』
・『画集をかねた新南画の描き方』
・『南画新論』
(後者三点いずれも小室翠雲著)
参考資料
翠雲年表など・・ 読者の研究者様よりご提供をいただきました。ありがと
うございました。

(この項、誤記・誤解・曲解・偏見・凡ミスなどありましたら是非ご指摘下さ
い。また、感想もお待ちしておりマース!)

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か、兎に角、約一週間後に、またお会いしましょう!

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