2019-11-06日本美術そうだったのか通信
Vol.395 暁斎展ご案内と《素戔嗚命の九頭龍退治》によせて【その2】

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お届けします。株式会社秋華洞提供。
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河鍋暁斎《素戔嗚尊の九頭龍退治》によせて【その2】

今回も前回に引き続き河鍋暁斎《素戔嗚命の九頭龍退治》によせての
「そうだったのか」をお送りします。
暁斎の《素戔嗚命の九頭龍退治》は
今週11月8日(金)から17日(日)まで、弊ギャラリーにて開催する
『We Love 暁斎』展に展示しておりますので、ぜひぜひ実物をご覧くださいませ。

企画展詳細は詳細はこちら↓↓
『We Love 暁斎』
会期:2019年11月8日(金)〜17日(日)
会場:ぎゃらりい秋華洞
時間:10:00〜18:00
展示作家:河鍋暁斎
現代作家:岡本東子、平良志季、森謙次、木原千春、江田朋
備考:会期中無休 入場無料

こちらもご覧くださいませ↓↓↓
https://www.syukado.jp/exhibition/we_love_kyosai/
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さて、前メルマガで申し上げた、秋華洞蔵の暁斎作《素戔嗚尊の九頭龍退治》の
タイトルの根拠とした大英博物館蔵の《素戔嗚尊の九頭龍退治》は、
明治20年頃に描かれたというもの。
元はイギリス人建築家であり、暁斎の弟子でもあったジョサイア・コンドルが暁斎より
譲り受けてイギリスに持ち帰ったもので、彼の手記の中でその制作の構想となっただろう
暁斎の旅の記録を残しています。

36歳となり忙しい盛りの暁斎は初めて山を歩く長期間の旅行をする機会を得た。
初夏の季節を選び門人留吉をつれて武蔵、上州から信濃の山国に達した。(中略)
戸隠山の周辺にはいくつかの峰があり、それぞれ頂上には古い神道の神々が
祀られていることで知られている。神話は天照大神が身を隠した洞窟の岩戸を
手力男命(たじからおのみこと)が引きはがし投げ飛ばした先がこの戸隠山で
あったという。 手力男命を祀った社殿は奥の院と呼ばれ、中院からさして遠くない
所にある。他にも表春命(うわばるのみこと)や天児屋根命(あめのこやねのみこと)を
祀った社殿、素戔鳴尊が退治したという九頭竜を祀った社があり、
近隣は古代日本の歴史や信仰にゆかりの深い場所に事欠かない。
暁斎は一日中各峰に登っては山頂の社殿を詣でたのち、夜遅く中院にもどり、
拝殿天井の揮毫という大役を奉納させていただきましょうと申し出た。…(以下略)」
と語っています。
※ジョサイヤ・コンデル『河鍋暁斎』(明治44年、ジャパン・タイムズ社)を底本とする、
ジョサイア・コンドル著、山口静一訳『河鍋暁斎』(岩波書店、2006年)より一部引用

※ジョサイア・コンドル(185-1920)…イギリスから招かれた建築家。
工部大学校(現・東京大学工学部)の建築学教授。鹿鳴館やニコライ堂など多くの
明治政府関連の建物の設計に携わり、「日本近代建築の父」と呼ばれ、
明治以後の日本建築界の基礎を築いた。
明治10年に来日し、14年には暁斎に弟子入り。その2年後には暁斎から
暁斎の「暁」にイギリスの「英」で「暁英」の号をもらっています。

コンドルの手記に書かれた暁斎36歳のときというのは明治2年(1865)のこと。
深山幽谷の風景を会得するために敢行した信州への旅は、暁斎にとって
生涯最長の旅となります。
暁斎はこの旅の途中で立ち寄った寺社や友人宅で、必ずと言っていいほど揮毫を
頼まれていて、手記に書かれた通り、戸隠山の中院でも落成したばかりの社殿の
大天井のために大画面の絵を求められています。

暁斎の口述をもとに瓜生政和(梅亭金鵞)が文をしたため、暁斎自ら挿絵を付けた
自画伝『暁斎画談』によると、この天井絵を描く際、暁斎は朝夕滝行をして、
村人や僧侶たち(戸隠神社は明治以前は寺社だったため、神官でなく僧が集ったのです)
観衆の見守る中、酒を一升飲み干して、一時間程の大パフォーマンスで
堂々たる竜の姿を描き上げたと伝えられています。…が…、
コンドルが制作を手伝っていた同行の弟子の留吉に聞いた話によると、
中院の大盃で3杯の酒を飲み干し、1週間ほどで巨竜の姿を仕上げたそう……。
暁斎…話を盛っている疑惑浮上ですね。
しかしながら、集まった観衆をその冴え渡る運筆が存分に楽しませたのであろうことは、
いかにも確かだと思わせられます。

ちなみに、巨竜の出来栄えの素晴らしさからか、竜の周りを囲う格天井の68枚の絵も
頼まれていたのですが、14枚まで描いたところで、戸隠は雪が降ると道が途絶え、
雪解けの春まで江戸に帰れなくなると知って、逃げ出すように山を下ったそう。
その後、暁斎は戸隠山を再び訪れることができず、結局この天井の完成を見ることは
叶わなかったのです。

この天井画と格天井は、残念ながら1942(昭和17)年に火災で焼失してしまうのですが、
戦前の絵葉書(ガラス写真乾板を元にしていたもの!!)が発見され、
それを元に平成15年に復元され、今日ではその姿を観ることができます。

脈々と受け継がれた九頭竜信仰の息吹を肌で感じた暁斎。
険しく深い山々、竜や神話という自然と超自然的な存在とが同居する戸隠山での体験
暁斎にとって大きな収穫となりました。
そして、この信州遊歴のハイライトを元に、大英博物館蔵の作品と、現在秋華洞所有である
《素戔嗚尊の九頭龍退治》が描かれたであろうことは想像に難くないでしょう。
古の英雄譚は鬼才暁斎の手によって画中に新たな魂を得て、今なお躍動し
雄々しい神話の一幕を語り続けています。

実物の筆致を見れば、厳かな気配の中に漂う緊張感と荒々しく迫る躍動感、
暁斎の超自然的な事物への崇拝の念までもきっと体感できるものと思います。

※大変な余談ですが、日本神話では、実は素戔嗚尊が戦ったのは八岐大蛇で、
九頭竜と戦ったのは日本武尊(やまとたけるのみこと)とするようですが…。
月岡芳年《素戔嗚尊 出雲の簸川上に八頭蛇(やまだのおろち)を退治し給う図》
↓↓島根県のHPに飛びます↓↓
https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/esque/2010/78/02.html
にみられるように、大蛇退治といえば素戔嗚命と結びつけるのも一般的で
あったようです。
そして、竜の首が必ずしも8つ(ないしは9つ)に分かれていなければならないとも、
伝承的に断定できるわけではないようですので、九頭竜退治と八岐大蛇退治は
簡単には別物だとも、同一視されている、とも言えない難しい…問題ですね。

と、またまた長々と書き連ねてしまいましたが、『We Love 暁斎』展では画廊内に
美術館の企画展で出された暁斎の画集や雑誌などの書籍も並べております。
ご自由に手にとってご覧いただけますので、
秋華洞蔵作と、美術館図録に掲載された大英博物館蔵の《素戔嗚尊の九頭龍退治》
とを見比べてみてくださいね。

スタッフ一同会場でお待ちしております!!

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…「河鍋暁斎の世界」
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