□■□■「日本美術そうだったのか通信」Vol.61
発行 有限会社アートオフィスJC・秋華洞
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<本マガジンの説明>
日本美術の鑑賞界のホットニュース、古今国内東西の作家のエピソード、美術業界
裏話など、日本美術をより楽しむための情報をお届けします。
アートオフィスJC・秋華洞提供。
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おはようございます、アートオフィスJC・秋華洞の田中千秋です。
今回は本メルマガのお届けが遅くなりまして大変失礼致しました。
ところで、みなさん、昨日、投票は行かれましたか。
昨夜は選挙速報を見ていましたが、あーびっくりした。自民圧勝。うーむ。ちょっ
と勝たせ過ぎじゃないかな、と心配です。小泉さん図に乗りそうで。他の政党
も眼を覚まして、小泉さんに負けない説得力を身につけて欲しいな、と私は思
います。
(ちょっとだけニュース)
『書画・鑑定マニュアル』ようやく増刷が出来てきました。今週から発送を開
始しますので、到着までお待ちください。ご予約を多数いただいている関係で、
発送が来週に及ぶかもしれませんが、ご容赦ください。
現在までご予約いただいた方には、全員無料でお届けします。
また、ご好評に感謝して、今月は、無料でお届けすることに致しました。
ネットでのお申し込み枠で、毎月50名づつ無料でお届けいたします。
まだの方は、よろしければ下記のリンクからお申し込みください。
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なお、申し込んだのに届かない、など万一ございましたら、下記のアドレスま
でご連絡くださいませ。
info@aojc.co.jp
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今週の作品紹介
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■松林桂月『秋林晩眺』(まつばやしけいげつ・しゅうりんばんちょう)
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銘品です。
二尺三寸の大幅横物。夕闇迫る森を飛び去る鴉(カラス)の群れ。桂月の好ん
で描いた秋の風景が、すべての色に青墨を溶かし込んだという、渋みのある絵
の具で描かれます。
私が言うのもなんですが、この作品は、パソコン上の画像をご覧になっても、
残念ながら、その魅力は半分もおわかりにならないと思います。
慎重に配された色と墨の重ね方の立体感、余情の「あや」が微妙でありまして、
暮れる森の寂寥感、あるいは心中の旅情のようなものが凍結された、入魂の作
品です。
本作は、桂月の晩年、70代の作品かと思われます。独自の波打ちふるえる木
々の描写に加えて、桂月流「たらしこみ」とでも云ったらいいのでしょうか、
あたかも色にじみのような薄い絵の具が紅葉始まる木々の狭間におかれて、画
面に余韻をもたらしています。
桂月について、あらためて紹介しましょう。
最後の南画家。
とも呼ばれています。
「南画」界の最大のライバル、小室翠雲の死後(昭和20年)、すなわち大戦後、
急速に西洋化する暮らしに適応した厚塗りの額装日本画が全盛になる中、孤高
に「南画」の世界を追求し続ました。
ところで今、念のために「最後の南画家」で検索してみたのですが、
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/507idg00f8lulp47iu
何人か出てきますね。
奥原晴湖、野田青石 、小川芋銭、松林桂月。
検索には引っかかりませんでしたが、考えようによっては、小室翠雲、鉄斎、
小杉放庵なども、そのような「いい方」はできるでありましょう。そんなに
「最後」が居てたまるかって?・・・ええ、その通り。
ただ、先ほど弊社に遊びにいらした学者さんの言によると(楽しかったです)、
自作の「漢詩」を絵に添付することの出来る才覚において、元祖、「最後の南
画家」、と呼んでいいのではないでしょうか。
さて。
南画とは何か、ちょっとおさらいしておきます。
南画については、下記のリンクに通り一遍の説明があります。
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/507ieg00f8lulp47iu
あ、そこの奥さん、寝ないで!もう少し我慢。
要はもともと「古い時代の中国の教養人の画」なのですが、形式は江戸時代の
蕪村、大雅などを経て、日本独自に発展しました。昭和に至っても、一種の
「精神的様式」の一派をなしたといっていいと思います。言葉と、墨味を生か
した枯れた画で作る、一幅の「詩」の世界ですね。
日本画特有の「余白」の余韻と、ともすると、「絵」で限定されてしまうイメー
ジを「言葉」の拡がりを使って生まれる、掛け算の芸術。
ともすれば克明に何でも描き込みたがる近代絵画と違って、「間」を大事
にしたこうしたジャンルの良さに気づく人はジワリと増えていくのではない
かと思います。
兎にも角にも、一度、実際にご覧になって頂きたい一幅です。
松林桂月『秋林晩眺』
絹本着色軸装
本紙58.5×70.5 cm 総丈172.7×89 cm
落款・印・共箱
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■徳川斉昭『中原莫道無麟鳳・・』補足
先週ご紹介した本作の現代語訳は、かなり拙い(まずい)ものでしたが、今回、
読者の方から、ご教授をいただきましたので、完全ではないですが、改良バー
ジョンをお届けします。
中原莫道無麟鳳 中原、道うこと莫れ、麟鳳無しと
自是皇家結網疎 自ら是れ皇家、網を結ぶこと疎なり
(お客様のご指摘により修正した田中訳)
天下(中原)に傑出した人物=賢人(麟鳳)がいない、と言ってはいけない。
そういう理由で、指導者は法政・道徳(網)を整えるのを、おろそかにしてし
まうことが多いのだ。
現代風に言うとですね、いい政治家がいないと言って、ニヒルになってはいけ
ないぞ、という内容にとってもいいのかもしれませんね。
徳川斉昭『中原莫道無麟鳳云々』
絹本・墨・軸装
本体 123cmx42cm 総丈 222cm x57cm
印
黒木欽堂極め書添付・野村素軒箱書き
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作品は一点限りです。お問い合わせ・ご用命はお早めにお願い致します。品
切れの際はご容赦下さいませ。
作品は、東京・銀座六丁目、電通通り沿いの、弊社アートオフィスJC画廊で
御覧になれます。また、スタッフ出張により御覧いただくことも出来ますので
ご遠慮なくお申し付け下さい。
<弊社開廊時間>
平日、土曜 10:00-18:00
日曜休廊
※平日にお越しの方には、当店自慢の美人社員(当社比)がお茶をお入れしま
す!
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でぇはでは、特集のスタートであります。
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人生は美しい 天田愚庵 その5
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(今までの天田愚庵)
天田愚庵その1,2,3, 4(通信Vol.53,55,57,59)
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山岡鉄舟から、任侠の人、清水次郎長親分に預けられることになった天田愚
庵(五郎)。
ところで、清水次郎長。旅まわりの芝居には無くてはならない登場人物です
よね。大政小政に森の石松。
次郎長は、架空の人物ではありません。
え?先刻ご承知。いや、恥ずかしながら、私は今回愚庵を調べて初めて知り
ました。
清水次郎長(しみず・じろちょう、1820〜1893)
本名 山本長次郎。
ご存知、東海地方の、任侠=ヤクザの親玉ですが、手のつけられぬ暴れん坊で
あった若い時代を経て、頭角をあらわしました。ヤクザといえば賭場の所場代
を稼いだり、カタギの仕事とは異なる「シノギ」で稼ぐのが常識ですが、戊辰
戦争をきっかけに山岡鉄舟との知己も得て、開墾事業に挑んだり、若い者に英
語を習わせたり、単なるヤクザの親玉にとどまらない、実業家でもあり、また、
魅力のある人物であったことは間違いのないところでしょう。
そもそも、彼の名が世に出たのは、「愚庵」のお陰?でもあるのですが、それ
は後ほど。
参考:清水次郎長とおまけアニメ
「日本の墓」ウェブサイト
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「POO’S WORLD」ウェブサイト 自作フラッシュ画像など
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愚庵は、次郎長と起居を共にするうち、次郎長の懐の深さに、しだいに惹か
れていきます。次郎長も、愚庵の一本気な性質を愛しました。
そして、その父母を捜し続ける境遇に深く同情し、東海道の子分はもとより、
北陸など他の地域の親分衆にも、捜索を依頼します。
情報は集まるけれども、決め手になる情報がない中、愚庵の焦燥感だけがつ
のります。もう、家族生き別れになった戊辰戦争から、すでに十一年が経つ
のです。
そんな中、唯一、連絡の取れる肉親の兄から手紙が届きます。「平から福島に
移り住んだ。」故郷恋しの重いに、いてもたってもいられず、愚庵は次郎長に
里帰りの暇を乞います。
さて、涙の兄との再会。兄は東北一帯をこれからも探すといい、弟は全国を
草の根分けて探し出すと誓い合います。
しかし探すのには資金が足りない。愚庵はいいことを思いつきます。写真師
になるのだ。旅回りの写真師なら、探しながら、軍資金もかせげる。
日本最初の写真師と呼ばれる下岡蓮杖の直弟子、江崎礼二に弟子入りを乞いま
す。にべもなく断られますが、運良く、鉄舟とその相談をした場に同席した五
姓田芳柳(ごせだほうりゅう)の口利きを得て、弟子入りに成功します。
五姓田芳柳【初代】。(ごせだほうりゅう)1827〜1892。絵画ファン
ならご存じですよね。高橋由一などと並んで、幕末から明治の油彩画の世界を
「開始」した一人、と言っていいと思います。愚庵は、鉄舟のお陰か、ともか
くも人の出会いの運が良い。運が良いのは、彼の情熱の血の濃さ、そして優し
さから来るものでしょうか。
さて、旅回りの写真師となり、愚庵は伊豆の各地で商売をはじめます。残念な
がら、やはり消息はつかめません。
世間では、愚庵の肉親捜しは評判を呼んだようです。
川奈浜では、国学者権田直助翁の主演に招かれ、その席で、福西四郎右衛門と
いう人物から、歌を贈られます。一座の静寂の中。
「夏の日の暑さも知らに、冬の夜の寒さも知らに、岩が根をいゆき踏みゆき、
浪の上をいこぎ渡らひ、父のみの父やとさけび、母そばの母やとよばひ、谷く
ぐ(ひきがえる)のさわたる限り、天雲の向伏(むかふ)す極み、父母を尋ね
廻(めぐ)らし、今し又伊豆の小国(おぐに)にたどりつつ、来しと聞くなり、
はしきやし、天田の君い…。(後略)」
夏の暑さも、冬の夜の寒さも構わずに、岩の根を踏み、波浪をこいで渡り、父
よ、母よ、と呼び、地の果て、天の果てまで、父母を訪ね歩き、今この伊豆の
小国にたどりついたと聞きました、天田君。
そして最後に、
「真幸(まさき)くてめぐりあへ君 父母は待ちかこふらんめぐり逢へ君。」
きっとご両親は待っている。いつか運はひらけるだろう、どうかめぐり合って
くれ、天田君。
愚庵の眼から涙がとめどなくこぼれ落ちます。
残念ながらこの探索は失敗に終わり、次郎長の元に戻ります。
「おまえ、俺の養子にならないか」
待っていたのは思いがけない親分の言葉でした。
(この項続く)
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思いがけず長くなったこの連載。この後も、愚庵はさまざまな姿・職業に身を
変えるのですが、箇条書きで書いてもチットモ面白くないので、ついつい長く
なります。これまで取り上げた人物はたいてい「画家」で、「画家」はだいた
い一生「画家」ですので、適当に特長的な事件だけ抜き出せばいいのだけれど、
愚庵は一人大河ドラマみたいな人なのですよね。外見は千変万化。派手さはな
いのだけど、切なく、純粋な魂の記録。続けちゃいます。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
おまけコラム 白洲正子その4
「白洲正子自伝」を読み終わり、夫の白洲次郎伝を(今、本屋で平積みされて
いる筈)パラパラ読んでいます。
白洲正子自伝、これ、書き出しがいいですねえ。いわゆる「つかみ」。
津本陽「薩南示現流」からの引用なのですが、薩摩のある武士の葬儀。歩み出
た橋口なる侍。亡くなった武士の棺の蓋も閉めず、参列者の中から、前田、と
いう若侍を呼びつけます。
「おはん(お前)が一番焼香じゃ。さきィ拝め」
おそるおそる進み出た前田の首を、橋口が一刀のもとに落として、その首は棺
の中にポトリ。
「こいでよか。蓋をせい。」
この橋口が何を隠そう、正子の祖父なのでありました。なぜ、そんなことになっ
たのかは、本を読んでくださいね。
読み進むなかで、「昔はどのうちでも、必ずお手伝いさんがいたものだった」
という旨のちょっとした一文を読むと、そんなわけないでしょ、上流階級に限っ
ての「どのうちでも」ということでしょう、自分の境遇を客観的に見られぬモ
トお嬢様の感覚だな、と「やっかみ」ぶくみの気分を感じることもありました
が、それは兎も角、明治の記憶も生々しい時代を知る彼女が描く、誇り高い、
堂々たる日本人たちの姿が印象に残りました。
薩摩隼人の子孫として、子供のころから「本物」の人物、モノに触れて育って
きた彼女がいわゆる目利きになるのは当然といえば当然ですが、「稀代」の目
利きとまでいわれるまでになった「出会い」は何だったのか。ちょっとわかり
ます。そして、彼女が生涯で学んだセンスと気迫、そして人生の楽しみ方につ
いて、自分なりに吸収できればと思います。
しかも、それこそ稀代の数寄者、益田鈍翁と会った記憶もある(!)人が、
「日本美術応援団」の「プロの素人」赤瀬川原平の著書にも言及するという、
私にしてみれば歴史の霞の向こうから、目の前の現代まっただなか、まで見て
きた彼女の眼(まなこ)にも、注目してみたいと思います。
冒頭で言及した白洲次郎ですが、この人も面白そう。マッカーサーと互角に渡
り合った、吉田茂お気に入りの雇われガチンコ外交官。極めてタフなネゴシエー
ターでしたが、気ままに翔び回る正子には非常に寛容であったあたりに、肝
(はら)の太さを感じさせます。
本当に楽しいこと、美しいモノに敏感なこと。背骨の通った生きっぷり。彼女
を神格化しても仕方ないですが、自分にとっての「背骨」を考える参考にはな
るのではないかな、と思います。
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